日本の歴史の中で培われた美意識の一つに「用の美」というものがあります。すべからく道具は使ってこそ活きるという価値観ですが、碁盤、将棋盤をはじめとした工芸品は、生活の中で使われるものでありながら、なお一級の美術品として愛されております。
伝統工芸は江戸時代にその技術がほぼ確立したとされておりますが、人生の全て、70年余をかけて伝統の碁盤作りを極め、昭和の名人と謳われた父、鬼頭徳吉もその継承者の一人です。父は、平成5年、兄は平成20年に亡くなりましたが、遺作の名品もたくさんございます。
手に取った瞬間の命の息吹、石を盤に置いた時の涼やかな響き、日本に数百年伝わる匠の技が、使う人全てを勝ち負けを超えた名局へと導きます。